カセットプラント ファクトリーとは

カセットプラントファクトリーは、アーティスト山口啓介による作品「カセットプラント」の制作サポートを中心に、 独自の活動をしているボランティアの集まりです。

「カセットプラント」は、山口啓介が1997年にドイツで発案した作品のひとつで、 音楽用のカセットケースの中に花や植物を入れて樹脂で封印します。

映画「ジュラシックパーク」の中で、恐竜の血を吸った蚊が、木の樹液のなかに閉じ込められ、 何千万年がたって樹液は『琥珀』となり、恐竜の遺伝子を守ったというシーンがあります。 カセットプラントの中に入っている天然樹脂はこの『琥珀』の役割をもち、 カセットケースに入れられた花や植物の遺伝子を守ること、 そして大切なものを《残す》というメッセージが込められています。

当初、山口啓介の作品として始まったカセットプラントですが、1年が経たった ころにワークショップの依頼がありました。 それをきっかけとして、カセットプラントはたくさんの人たち、ボランティア、 サポーターの方々の手によって育てられてきました。 たとえば、最初数十個単位で制作したカセットケースは数千個単位に、花は自然 乾燥から乾燥剤を使用し色も形も長く残るように、カセットをガラスなどに貼り 付けるための特殊な接着チップの改良などなど…、 その規模や技術も、そして効果も、回を重ねるたびみるみるうちに進化し、いま やカセットプラントは、アーティストひとりの手だけでは成立しない作品に成長 しました。 そしてこれまでカセットプラント制作の過程のなかで、たくさんの人との出会い や経験、絆ができたことは、カセットプラントファクトリーの宝となり、また、 共同制作によってうまれた交流は、アーティストの思いが伝わり、《作り手》と 《見る側》が近くなる瞬間でもありました。 カセットプラントをとおして生まれた様々な出会い、そして様々な思いを未来に つないでゆきたい…カセットプラントファクトリーはそんな願いのもとに誕生し ました。

山口啓介の作品のイメージのひとつに『方舟』が知られています。カセットプラ ントは花の美しさ、自然の作り出す形への讃歌でもあり、美を、命を未来に伝え る『方舟』でもあります。 カセットプラントファクトリーは現代社会において美術の可能性を探求し、次の 世代、未来に美術の力をつないでいける「カセットプラントの方舟」でありたい とおもいます。

山口啓介のことばをここに引用します。

「・・・“自然”の方向へ伸びていく美しさの“経験”を増やすこと。芸術の知覚と 発見の経験の幹を太くすること。こどもたちの発しているひかり。未来への夢。」

「山口啓介展 空気柱光の回廊 2003」高崎市美術館 カタログより